ZIPANG-2 TOKIO 2020 ~ドミナンスで景観再生(3)~日本の色彩環境の未来を位置付ける【寄稿文】林 英光

先の北海道における地震災害、関西地方ならびに中国四国・九州地方における大雨・地震災害で亡くなられた皆様のご冥福をお祈りするとともに、被災された全ての方々に心よりお見舞い申し上げます。


未来環境もドミナンスがつくる

前回に続き幸せのドミナンスと実例をあげる。

「和とハイテクの都市の色彩ドミナンス」
世界デザイン博 白鳥会場の例 1989世界デザイン博覧会の3会場及びアクセス道路の景観演出を担当。都市は全体のドミナンスと地域によるドミナンスがありその実験。白鳥中央会場はヤマトタケルの白鳥伝説とハイテクデザイン、造形は中央の◯、テーマ色は赤、そしてハイテクらしい白と数色のグラデーション。名古屋港会場は世界へ広がる海、発展する形セールの△、テーマ色は青、そして白と虹の色。名古屋城会場の造形は城の平面から⬜︎、テーマ色は常盤の緑、支える伝統の能の色。それぞれの海・都市・伝統にふさわしく五感での都市環境の実験演出をした。 


未来環境も現在に至った文化の元になる経緯が大事である。世界的に評価の高い自然共生の縄文文化から、弥生の王権、平安の貴族文化、鎌倉以来の武家文化、明治からの庶民文化、そして今がある。これが様式や花咲く文化、くらしのあり方を形成してきた。その中で私たちの関わる視覚、環境のデザインは、人間活動の物心両面にわたり大きな役割を持ってきた。


現在の混沌としたわが国の坩堝からあるべき方向を見出すには現状に至った理由もあり、一概に現状を否定するのではなく次に進みたい。それはわが国の衰退を前向きに捉え、成熟文化に向かうことであり、中庸の本物の「道」の追求を続けた江戸260年の平和の思想に近づく新たな時代である。


一説によると文化の盛衰は800年周期で西と東が入れ替わるという。確かに大航海時代の植民地争奪や産業革命による西洋の繁栄は陰りを見せ、今は日本が先駆ける急激なアジアの時代に入っている。これは人類の手に負えない気候変動に近い力が経済や地域の興亡に大きく作用しているように思える。西洋は世界の博物館になり、アジアは隆盛しつつある。しかし洋の東西に限らず優れた文化の基本は、いつまでも人々の心に刻まれ継承されるだろう。


「ドミナンス」は人の心に寄り添う

「テーマカラーによるドミナンス 」
海のランドマークは遠方からもめだつ強目のテーマカラーによるドミナンス。ランドマークの造形、配置、色彩、機能と意味が明確であれば、景観の寄りどころとなり、周辺全体にも景観のドミナンスの秩序ができる。


「和やかで優しいドミナンス」
スポーティーなリゾート環境ではシンプルな色使いが空間造形とともに和やかで優しいドミナンスをつくる


「強目のカラーのドミナンス」
ビューポイントからの背景をも考慮して 海のリゾートの強目のカラーのドミナンス効果 


日本文化の地味な花である藍染一つとっても19代も続く藍の原料づくりから、現代に続く本物の藍染に至る複雑きわまる追求の過程がある。ジャパンブルーと言われる中身は、戦の褐色(勝ちいろ)、怪我病気の回避、虫除け、耐久性、繊細な表現と精神までが含まれている。現代の色を染め塗るだけの化学染料や塗料とは異なり、これが伝統文化の素晴らしさである。


多くのわが国の文化表現は簡素の極みを追求する「道」であるがその過程や内容は同様に奥深い。武道、書道、茶道、華道、香道、神道、禅道・・・。これらは質素、シンプル、厳しさ、安らぎ、華やかさなど、くらし全般にわたる規範であり、醸し出す趣が和の「ドミナンス」である。洋の生理的、感情的とは大分違う、心・精神のドミナンスであり、変貌の先はわが国の江戸期までに培われたエコな暮らしの体験が、アジアが向かう先進の手本になると考える。


大切なのは物やマネーではなく引き継がれる文化の心である。日本人が忘れつつある和の文化の心は、例えば本来相手を殺害する武術から、相手を尊重し礼に始まり礼に終わるスポーツとした嘉納治五郎の柔道のように、世界中に広がり、例えば空手などもファッションの都ミラノだけで200の道場があるというほど愛されている。


景観のドミナンスの効用


わが国の荒廃した景観は、明治維新から敗戦に至る伝統文化の破壊と軽視と経済優先にある。戦後70年余、国敗れて山河なし。米軍が接収した和の建築の床の間をトイレにし、美しき床柱にピンクのペンキを塗る文化の洗礼は今の色彩環境にも続いている。現在わが国の貧弱な人工景観の改善は、人間の本質の感性を取り戻す新たな発想が必要である。それは大地や地域に支配的に存在する「ドミナンス」にある。


景観のドミナンスは、国を地域を郷土の文化を本能的に愛する心にあり、人間の業である戦争や些細な様々なこと、隠蔽体質、暴力やあおり運転、いじめ、ゴミ捨てなどに至る反社会的な心さえ抑制し和らげる静かなパワーを秘めている。それは自然との共存調和の限界を超えた世界、特にわが国土の景観阻害要因の改善になる。


道路環境のドミナンス


強すぎる道路環境のドミナンスがもたらす視覚的混乱
身近な例で交通事故を減らす一環として道路の色彩の過剰傾向が愛知県など広がっている。都市景観の改善を目指す立場と逆行する公共事業である。


交通教本にある白・黒・黄橙と交通標識、信号灯などの正しい設置以外に、赤や青のかなり彩度の高い路面塗装は、他都道府県市町村の住民、外国の訪問者には見慣れない視認要素に戸惑いを感じさせるので一考を要する。


また国交省から東海道自転車道の構想が出たが、最近みる一般道の自転車道の青と車の右折塗装と大型標識看板などの色彩が近似であるのは紛らわしく、これも同様である。自転車大国オランダあたりの自転車道塗装は目立たない渋い茶であったと記憶している。


さらに全国各地の道路環境に溢れる看板公害同様に安心安全な幸せなくらし環境には、定められている安全機能色の視認を阻害しないことが第一である。

道路環境のドミナンス
道路の表示は情報が少ない方が瞬時の判断に良い。彩色はかえって複雑さが増し周辺景観にも強い影響を与える。 


また景観の基本は自然環境の色彩を阻害しないことである。空や海、水辺に鮮やかな青を、野山の植物の色彩より彩度の高い緑を使うのは自然への思いやりのない間違いである。


モビリティが新たなドミナンス環境をつくる


ところで今新たな景観の変革が別の視点から始まろうとしている。日本の国土・都市環境は他国と比べ、現在まで形成されてきた特異な経緯もあり、従来の手法では改善が難しい。


現在「美しい日本の色彩環境を創る研究会」LOJが目指す、国土全体から地域までの景観の総合的改善には、人の知性の重要な機能である創造性と感性が判断する景観のドミナンスによる取り組みと、名城大学 理工学部 情報工学科川澄未来子先生が中心に進めるモビリティとその環境の色彩の研究が始まった。AI(人工知能)を組み合わせることで、脱炭素社会を変える新たなモータリゼーション環境も視野に、より総合的現実的な人とAIの融和した近未来の都市環境が出来る。


都市も人間の基本を大事にした新たな価値観で再構成し、別次元のドミナンスの色彩環境を実現したい。中でもAIモビリティの先進都市を目指す名古屋市は、幹線道路も周辺生活道路も他都市に比べ余裕もあり、その実現の場として適している。


モビリティー自体は移動するメデアにも発展し、動く色彩環境にもなるため、公共環境である道路全体の構造と、道路に面した建築物も根本から変わるだろう。機能性と同時に色彩環境にも先進的取り組みが期待できる。


しかしAIによる自動運転などは、生物界から見ればまだ初歩的行動の一部である。
暗闇でのコウモリの飛翔、生き物同士の行動や、渋谷の交差点や大都市の駅の大混雑でも白い杖の人もぶつからずに移動している。生き物は現実に行動し、物理学テクノロジーをはるかに超えた領域にいる。


先の長い変化が始まるがAIによるテクノロジーはバーチャルであり、生き物としての人間の基本を保ち幸せにするには、その利用は留意して取り組む必要がある。さらに問題がある近未来の空飛ぶモビリティー時代には、空からの視点も色彩環境ドミナンスの課題になるだろう。


最近のAI(人口知能)技術で特に注目されているのが、畳込みニューラルネットワークのディープラーニング(深層学習)です。この技術を使って、景観色彩の美しさをAIに自動的に判定させられるようにできないか試みています。予めニューラルネットワークに「景観設計の専門家の感覚で景観色彩の美しさを判定」できるよう学習させておきます。すると、その学習済みのニューラルネットワークに任意の景観画像を入力した時に、景観設計の専門家に代わって美度指数を出力できるようになります。


近年注目されているディープラーニングを用いて「人のような感覚で道路景観の美しさを判定するAI」を作成し、任意の景観画像に対して人に代わり美度指数を出力できるようにする試み。 


最近のAI(人口知能)技術で特に注目されているのが、畳込みニューラルネットワークのディープラーニング(深層学習)である。この技術を使って、景観色彩の美しさをAIに自動的に判定させられるようにできないか試みている。


予めニューラルネットワークに「景観設計の専門家の感覚で景観色彩の美しさを判定」できるよう学習させておく。すると、その学習済みのニューラルネットワークに任意の景観画像を入力した時に、景観設計の専門家に代わって美度指数を出力できるようになる。


風土と伝統を活かしたドミナンスが美しい日本の未来環境を創る

景観のドミナンスの色彩は朝からよるまで刻々と変化するが、全体の基本は一定の雰囲気を保つ形状がまず優先する要因である。

「風土と伝統を活かして美しい日本の未来を創る」は私のデザインポリシーである。

現在のわが国ほど素晴らしい自然景観に恵まれながら、全体景観の美に無頓着な国はない。提示した画像は南から北まで共通する風景ではあるが、国民は日頃からこの状況に訓化され、或は諦観している。


貴重な国宝や文化財を取り巻く環境でさえ、他国ではあり得ない、許されない悲惨な景観である。景観条例などは部分的であり、広く国中の目指すポリシーが必要で、電柱は日々成長し4階の建物をしのぎ、田園も住宅地も観光地景勝地も何のその、類を見ない醜悪な姿を堂々と晒している。


景観は視界に入る最も具合の悪いもの一つでそのレベルは評価される。見たくないものは脳で削除でき、画像はトリミングで美しい絵葉書になる。


個々には素晴らしき建物や様々な取り組みはあるが、部分的であり良き景観要素も「掃き溜めに鶴」状態にある。わが国の人口も江戸時代の8000万になり、世界の衰退現象の最先端途上にある今、縄文・万葉・江戸と続いたエコ文化とAIの調和する成熟社会の良きドミナンスをめざす取り組みを進めたい。


景観のドミナンスは感覚的主観的なものであり、何時の日か数値化出来るとは思うが、数値化が難しいもの、そこにこそ最も人間にとって忘れてはならない大切な何かが含まれている。


【寄稿文】 林 英光

環境ディレクター
愛知県立芸術大学名誉教授




3回にわたる~ドミナンスで景観再生~のご寄稿文は、ひとまず本号にてこの度の最終話となります。ありがとうございました。

ZIPANG-2 TOKIO 2020 ~ドミナンスで景観再生(1)

ZIPANG-2 TOKIO 2020 ~ドミナンスで景観再生(2)

 

ZIPANG TOKIO 2020 編集局
編集長 鎹八咫烏
伊勢「斎宮」の明和町観光大使


※画像並びに図表等は著作権の問題から、ダウンロード等は必ず許可を必要と致します。


 



ZIPANG-2 TOKIO 2020

2020年東京でオリンピック・パラリンピックが開催されます。この機会に、世界の人々にあまり知られていない日本の精神文化と国土の美しさについて再発見へのお手伝いができればと思います。 風土、四季折々の自然、衣食住文化の美、神社仏閣、祭礼、伝統芸能、風習、匠の技の美、世界遺産、日本遺産、国宝等サイトを通じて平和な国、不思議な国、ZIPANG 日本への関心がより深かまるならば、私が密かに望むところです。

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