先の北海道における地震災害、関西地方ならびに中国四国・九州地方における大雨・地震災害で亡くなられた皆様のご冥福をお祈りするとともに、被災された全ての方々に心よりお見舞い申し上げます。
国のまほろばを 景観のドミナンスで再生する
最近古都奈良の名だたる寺々や、愛すべき小さきものを見に出かけた。その途中遥かに見覚えのある甍の堂塔を遠望し、「倭は 国のまほろば たたなずく青垣 山こもれる 倭しうるはし」という万葉の歌が思い浮んだ。「まほろば」は 素晴らしい、住みやすい場所の古代の和語である。
二月堂から展望する大仏殿と美しい近景。遠景の奈良平野の雄大さは古代の為政者の心の大きさを忍ばせる。
国土景観も小景観も現在でも住民の志と政治家の意欲と実力で実現出来る筈である。
魅力的な二月堂を見ながら三月堂前の店の程よい良い食事は、古代と現代感覚の素晴らしい融合である。
景観は五感で見るものであり、美しい諸外国と同様に景色と食も素朴で美しい土鈴も一体で、古きも新しき良きもの魅力も引き立つ。
当日巡った寺社の土鈴:由緒ある寺社の土鈴も素朴な秘めた心を表すドミナンスの要素である。今後継者や作家と共に消えてゆく運命にある。 中央の椿と右の提灯:二月堂 、 上:橿原神宮の開運金鶏、左:矢田寺の紫陽花、左下:古事記とおたふく 賣太神社、右:蟹満寺
だがしかし、わが国の元である大和の現在の景観のなんと無残な変貌振りであることか。大和に限らずわが国は今、あらためて万葉の歌の心に立ち戻ることが必要である。画像をご覧いただくと、それは今わが国のどこにでもある見慣れた普通の景観である。
「たたなづく 青垣山こもれる やまとし 悲しき・・・」では先人に申し訳ない。取り巻く大切な山々の背景、街並みのスカイラインを阻害しないことへ意識の変革を学校教育から始めたい。古代の国の元である大和から始まり手本になれば全国に伝播するだろう。
日本の国のふるさと大和から、国宝・重文に限らず小規模であっても古き良きものは貴重な地域の資産であり、大切にすることが地域の心に響き誇りと美しき住むに値する環境になる。
典型的な日本の都市景観。日本人の見て見ぬ振りの事なかれ、縦割り行政の結果がこれである。看板の彩度を抑えるだけでは駄目。
何としても次世代の幸せのため、電柱など道路付属物、交通標識、商業看板などのあり方を優先的プロジェクトとして取り組み改善したい。
この過剰な電柱看板などのジャングルでは、交通安全、災害時の対応、暮らしの安全も人の心の幸せもどうなるのか・・・。
寺社などの品格は、看板や細部の丁寧な景観管理が大切である。この画像では銅の手すりなどの生地と緑青で、
歴史と人の手の優しさが伝わり景観全体の美しさの理由もわかる。
何故この国の今はこのような景観になったのか。文化財の寺も、一歩外の環境は三階建ての屋根を超える巨大な電柱の森と看板などで混乱し「掃き溜めに鶴」の状態であり、これが全国99%の実態である。しかしTVや画像で見るわが国の景観は綺麗ではと思うであろうが、トリミングと不要物削除の修正結果が多い。しかし海外でのスナップはほとんど修正の必要はないことに気付くであろう。帰国直後は自国の景観の貧弱さに気づくがじきに忘れられる。実際わが国の現実はご覧のような状況であり、特に日頃生活する住環境を改善しなければ次世代の心にも影響する。
数年前この状況を色彩環境の視点から改善したいと考え、名古屋で日本色彩学会「美しい日本の色彩環境を創る」研究会を立ち上げた。
美しい環境・景観が何故必要か
日本は今世界の衰退現象の最先端にあり、早晩日本は世界で最も悲惨な国になると予測され、人口は江戸時代並みになると言うが、私たちはそれほど危機を実感していない。しかし現状の一例では文科省調べで年間約500の新たな廃校が増え続けている。少子化である。ことごと左様な問題がわが国では進行しているが、大事なことを一つ挙げれば次世代を担う子供たちの育つ環境が、現状の殺伐とした状態であってはならないし、高齢社会の進行に伴う幸せなくらしにも早急に改善に取り組むべき課題である。
また資本主義社会は今後も富める者とそうでない者の乖離はますます進行すると言われるが、大切なのは誰もが自由に公平に共有できる、自然景観や道路空間などの公共環境、生活環境の視覚的環境、ユニバーサルデザイン環境と人に優しい景観である。
景観のドミナンスとは
私の言う景観のドミナンスは、環境全体に流れる通奏低音、五感で知る地域のDNAである。風土、歴史、伝統、人工物の形状、色彩などからくる風景、空気感、情緒、風情であり、それらは地域住民の幸せを望む心が共有する、暮らしの信条と心情に集約される大切な環境調和の基本である。
わずかに残る日本の麗しい風景、趣はことなるが世界の魅力的な都市を想い浮かべてみよう。心が自然に馴染み幸福感が湧く。今まで日本の国土・地域計画などは、何より大切な場所の感性を粗略にし、与えられた敷地に広域を配慮せず感性の調和のビジョンもなく進めて来た。中でも景観調和の阻害要素は、ご存知の鉄塔や電柱、看板、ガードレール、派手な幟旗、田園や工事中のブルーシート、世界でも珍しい美的とは言えない建物の混在する環境であり、その背景にはわが国の縦割りの慣習がある。ここまで混乱の進んだ様相の改善は従来の統一や制限とは異なる、その上を行く方策が必要である。
それはわが国の場合ご覧のような混濁ぶりを一概に否定するのではなく、今の日本のゴタゴタや多様な現実を一種の特徴と捉え、さらに前向きなパワーとして活かすことが現状に合った方法であるとも考えている。この混乱した環境を感性で統括し誰もが分かり共有できるもの、地域に備わっている雰囲気、つまり景観のドミナンスから新たな景観手法として、計画の方向を導き出すことも可能であると考えている。
続く・・・
【寄稿文】 林 英光
環境ディレクター
愛知県立芸術大学名誉教授
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