このたびの平成30年 7月豪雨、9月台風並びに北海道大地震により、亡くなられた皆様のご冥福をお祈りするとともに、被災された全ての方々に心よりお見舞い申し上げます。
秋田県男鹿「ナマハゲ」
この行事は、昭和20年代まで小正月に行われていた来訪神の行事である。内容は、各伝承地で細部に相違が認められるものの、集落内の若者たちが面をかぶり、ケデをつけて家々を訪れ、威厳のある所作で人々に接するという形態で共通している。年の折り目に神が来臨し、人々に祝福を与えるという趣旨の行事である。
山形県遊佐「遊佐の小正月行事」
この行事は、遊佐町の女鹿・滝ノ浦・鳥崎の3地区に伝承される小正月の行事で、アマハゲと呼ぶ来訪神が各家を訪問するほか、鳥追いやホンテ焼きなどの行事も行われる。
アマハゲは、ケンダンを着て赤鬼や青鬼などの面をつけた若者が各家を訪問して餅を配る。鳥追いは、ヨンドリ・ヨナカドリ・ヨアケドリ・アサドリの4回行われ、太鼓に合わせて鳥追い唄を歌いながら集落内をまわる。ホンテ焼きは、門松や注連縄などとともにケンダンを焼く行事である。
※"ケンダイ“とは藁で作った蓑(ミノ)のことで雨具又は防寒具の一種。材料は藁の他、菅(スゲ)、茅(カヤ)、科(シナノキ)等があり、肩から羽織ります。また能登のアマメハギの場合は腰蓑も着けます。
石川県能登「アマメハギ」
この行事は、能登半島に濃密な分布を示す来訪神の行事で、アマメハギのほか、メンサマなどとも呼ばれる。天狗面・鼻ベチャ面・猿面、あるいは男面・女面などと呼ばれる仮面をつけて家々を訪れ、災厄を祓って威厳のある所作でむら人に接する。
「来訪神:仮面・仮装の神々」のユネスコ無形文化遺産登録に当たっての総理メッセージ
外界から訪れ,人々に幸せや豊かさを約束する「来訪神」。
それは,我が国の豊かな自然風土の中で生まれた人々の祈りの形であり,また,外から訪れるものをもてなす日本の伝統的な精神の現れです。
本日,ユネスコ無形文化遺産に「来訪神:仮面・仮装の神々」が登録されましたことを,心から嬉しく思います。
幾世代にもわたり,各地域で受け継がれてきた10件の「来訪神」行事を,誇りを持って次の世代へ継承するとともに,国内外に発信していきたいと思います。
平成30年11月29日
内閣総理大臣 安 倍 晋 三
「来訪神 (らいほうしん):仮面・仮装の神々」のユネスコ無形文化遺産登録 (代表一覧表記載)について
ユネスコ無形文化遺産保護条約第 13 回政府間委員会(於:ポートルイス・モーリシ ャス)において,我が国より提案した「来訪神:仮面・仮装の神々」の代表一覧表記載 に関する審議が行われ,11月29日(木)(11時42分[日本時間11月29日(木) 16時42分]),「記載」との決議がなされましたので,安倍内閣総理大臣メッセージ, 柴山文部科学大臣談話と併せて,お知らせいたします。
1.政府間委員会の審議結果
○「来訪神:仮面・仮装の神々」については,「記載」の決議がなされた。
(参考)評価機関による勧告の3区分
・①「記載(Inscribe)」:記載するもの。
・②「情報照会(Refer)」:締約国に追加情報を求めるもの。
・③「不記載(Decide not to inscribe)」:記載にふさわしくないもの。
2.これまでの経緯
○「来訪神:仮面・仮装の神々」は,我が国より提案した「男鹿のナマハゲ」が平成23年のユネスコ無形文化遺産保護条約第6回政府間委員会(バリ・インドネシア)に おいて,既に登録されていた「甑島のトシドン」との類似性を指摘され,「情報照会」 の決定を受けたことを踏まえ,国指定重要無形民俗文化財(保護団体認定)の10件 を構成要素としてグループ化し,「甑島のトシドン」の拡張提案として提案したもの。
<関係年表>
平成21年 9月 ユネスコ無形文化遺産保護条約第4回政府間委員会(アブダビ・アラブ首長国連邦)において「甑島のトシドン」がユネスコ無形文化遺産に登録される。
平成23年11月 同第6回政府間委員会(バリ・インドネシア)において「男鹿のナマハゲ」が「情報照会」の決定を受ける。
平成28年 3月 「甑島のトシドン」を拡張し,「男鹿のナマハゲ」を含む国指定重要無形民俗文化財を「来訪神:仮面・仮装の神々」としてグループ化して提案。
平成28年 6月 ユネスコの審査件数の上限(50件)を上回る提案(56件)が各国より あったため,無形文化遺産の登録がない国の審査を優先するという国際ルールに基づき,登録件数が世界第2位である我が国の審査が1年先送りされる こととなる。
平成29年 3月 「来訪神:仮面・仮装の神々」を再提案。
平成30年11月 第13回政府間委員会(ポートルイス・モーリシャス)において「来訪神:仮面・仮装の神々」について「記載」の決議。(現地時間:11月29日)
(参 考)
◇政府間委員会
ユネスコ無形文化遺産保護条約の締約国(平成 30 年 11 月 1 日現在 178 か国)から選出さ
れた 24 か国で構成。年1回開催され,評価機関の勧告を踏まえ,「代表一覧表」記載について最終決定を行う。
<政府間委員会委員国一覧>
[地域] 委員国
[西欧] キプロス,オーストリア,オランダ
[東欧] アルメニア,アゼルバイジャン,ポーランド
[中南米] キューバ,グアテマラ,コロンビア,ジャマイカ
[アジア大洋州] フィリピン,日本,中国,スリランカ,カザフスタン
[アフリカ] モーリシャス,セネガル,ザンビア,ジブチ,カメルーン,トーゴ
[中東] レバノン,パレスチナ,クウェート
「来訪神:仮面・仮装の神々」の提案概要
1.名 称
来訪神:仮面・仮装の神々
2.内 容 仮面・仮装の異形の姿をした者が,「来訪神」として正月などに家々を訪れ, 新たな年を迎えるに当たって怠け者を戒めたり,人々に幸や福をもたらしたりする行事。
3.分 野 年中行事(儀式 rituals )
4.構 成
国指定重要無形民俗文化財である「来訪神」行事 10 件
・甑島(こしきじま)のトシドン(鹿児島県薩摩川内市)
・男鹿(おが)のナマハゲ(秋田県男鹿市)
・能登(のと)のアマメハギ(石川県輪島市・能登町)
・宮古島(みやこじま)のパーントゥ(沖縄県宮古島市)
・遊佐(ゆざ)の小正月行事(山形県遊佐町)
・米川(よねかわ)の水かぶり(宮城県登米市)
・見島(みしま)のカセドリ(佐賀県佐賀市)
・吉浜(よしはま)のスネカ(岩手県大船渡市)
・薩摩硫黄島(さつまいおうじま)のメンドン(鹿児島県三島村)
・悪石島(あくせきじま)のボゼ(鹿児島県十島村)
5.保護措置
伝承者養成,記録作成,用具修理・新調,普及促進 等
6.提案要旨
○「来訪神:仮面・仮装の神々」は,正月など年の節目となる日に,仮面・仮装の異形の姿をした者が「来訪神」として家々を訪れ,新たな年を迎えるに 当たって怠け者を戒めたり,人々に幸や福をもたらしたりする行事である。
○「来訪神」行事は,伝承されている各地域において,時代を超え,世代から 世代へと受け継がれてきた年中行事であり,それぞれの地域コミュニティで は,「来訪神」行事を通じて地域の結びつきや,世代を超えた人々の対話と交流が深められている。
○「来訪神:仮面・仮装の神々」のユネスコ無形文化遺産代表一覧表への記載
は,地域の人々の絆(きずな)としての役割を果たしている無形文化遺産の保護・伝承の事例として,国際社会における無形文化遺産の保護の取組に大
きく貢献するものである。
政府間委員会決議文仮訳
委員会は:
1. 日本が来訪神:仮面・仮装の神々(No.01271)を人類の無形文化遺産の代表的な一覧表への記載に向けて提案したことを確認する。
来訪神行事は,日本各地,特に東北,北陸,九州そして沖縄地方において, 新年や季節の節目となる日に毎年開催される。
これらの行事は,外界から現れる神々である「来訪神」がコミュニティを訪れ,幸福と幸運を伴う新年あるいは新しい季節をもたらすという人々の祈りに由来する。
行事の間,地域の人々は異様な衣装と恐ろしい仮面を纏った神々に仮装し,家々を訪れ,怠惰を戒め,子どもたちに善い行いをするよう教える。
家の主が神々を特別なご馳走でもてなして訪問を締めくくったり,または路上で行事が執り行われるコミュニティもある。特定の年代の男性が来訪神になるところもあれば,女性がその役割を担うところもある。
これらの行事は異なる社会的、歴史的背景をもつ地域において発展してきたため,多様な形態を持ち,様々な地域的特色を反映している。
行事を執り行うことによって,地域の人々,とりわけ子どもたちは,アイデンティティを造成し,コミュニティへの帰属意識を発展させ,相互の絆を強めている。
祖先の教えに従い,コミュニティの人々は,関連する知識を継承する責任を持つ伝承者としての役目を務めつつ,行事を準備し,執り行う責任を共有し,協力している。
2. 提案書に含まれる情報をもとに,提案が,人類の無形文化遺産の代表的な一 覧表への記載のための以下の基準を満たしていると決定する:
R.1: 提案書は,家族・コミュニティの行事であるという著しい性質と,そ の形態の多様性を強調しつつ,提案案件を非常に明確に描写している。 この行事は,子どもたちに道徳や行儀を教え,家族との絆を強め,地 域の伝統への敬意を増進させることで,子どもの教育に重要な役割を 果たしている。協同と共有を通じ,コミュニティのアイデンティティ が育まれ,継続的に受け継がれていく。
R.2: この案件の記載は,無形文化遺産の包括性と,性別を超え,全ての世代を一つに結びつける力についての認知を向上させる。来訪神行事は 日本の様々な地域で執り行われ,地域の歴史的,自然的,社会的背景 を尊重している。それゆえ,文化多様性は来訪神行事に内在している。 同様に,仮面や地域の行事の多様な形態が示しているように,来訪神行事は人類の創造性も証明している。
R.3: 来訪神行事を保護するための過去及び現在の取組は,主導的役割を果 たす地域の保存会及び来訪神行事保存・振興全国協議会とともにこの無形文化遺産を保護し,伝承していくという,地域のコミュニティの長期的な約束を証明するものである。十分に明確にされた保護措置は, 過去のイニシアティブを生かし,この行事の伝承,特定,普及促進を含んでいる。提案書は,提案されている保護措置の計画段階からコミ ュニティが参画していることと,彼らがその実施の中心的役割を果たしていることを明確に示している。
R.4: 提案書は,議論や会合が行われたことを強調しつつ,その準備の全ての段階におけるコミュニティの人々の参加を明確に説明している。地域のコミュニティは,それぞれの保存会や地方自治体,来訪神行事保 存・振興全国協議会によって代表され,その全員が自由な,事前の, 説明を受けた上での同意を与えている。
R.5: 来訪神行事が10の異なる地域で実施され,異なる名称で知られてい ることから10件の仮面・仮装の神々の来訪の行事は,1977年か ら2017年にかけて,個別に日本の無形文化遺産の目録に含まれた。 行事の説明は十分であり,必要な情報を全て含んだ,国内の目録からの文書による証拠が提供されている。コミュニティの人々は,目録の作成と更新に能動的に参画している。
3. 来訪神:仮面・仮装の神々を人類の無形文化遺産の代表的な一覧表に記載する。
4. 提出国が大変よく調えられ,明確な構成をもつ提案書を提出したことを祝い, また,提案された無形文化遺産のカギとなる側面を全て含み,視聴者がこの 無形文化遺産の詳細を理解できるようにするビデオを提出したことを称賛する。
5. この記載が,運用指示書の I.6 に従い,2009年に記載された 甑 島(こしきじま)のトシドンに替わるものであることを確認する。(注)
注)「甑島のトシドン」を拡張し,国指定重要無形民俗文化財10件をグループ化して記載したことを指している。
ユネスコ本部
DECISION 13.COM 10.b.19
The Committee
1. Takes note that Japan has nominated Raiho-shin, ritual visits of deities in masks and costumes (No. 01271) for inscription on the Representative List of the Intangible Cultural Heritage of Humanity:
Raiho-shin rituals take place annually in various regions of Japan – especially in the Tohoku, Hokuriku, Kyushu and Okinawa regions – on days that mark the beginning of the year or when the seasons change. Such rituals stem from folk beliefs that deities from the outer world – the Raiho-shin – visit communities and usher in the new year or new season with happiness and good luck. During the rituals, local people dressed as deities in outlandish costumes and frightening masks visit houses, admonishing laziness and teaching children good behaviour. The head of the household treats the deities to a special meal to conclude the visit, and in some communities the rituals take place in the streets. In some communities, men of a certain age become the Raiho-shin, while in others women play such roles. Because the rituals have developed in regions with different social and historical contexts, they take diverse forms, reflecting different regional characteristics. By performing the rituals, local people – notably children – have their identities moulded, develop a sense of affiliation to their community, and strengthen ties among themselves. In accordance with their ancestors’ teachings, community members share responsibilities and cooperate in preparing and performing the rituals, acting as the practitioners responsible for transmitting the related knowledge.
2. Decides that, from the information included in the file, the nomination satisfies the
following criteria for inscription on the Representative List of the Intangible Cultural
Heritage of Humanity:
R.1: The file provides a very clear description of the element, highlighting its strong
family and community nature as well as the diversity of its forms. The element
plays an important role in children’s upbringing; it teaches them about moral
behaviour, strengthens bonds with other family members and promotes respect
for local traditions. Through collaboration and sharing, community identity is
fostered and continually transmitted.
R.2: The inscription of the element would raise awareness about the inclusiveness of
intangible cultural heritage and its ability to transcend gender divisions and bring
generations together. Raiho-shin is practised in different regions of Japan and
respects local historical, natural and social contexts; cultural diversity is therefore
intrinsic to it. As such, it also testifies to human creativity, as illustrated by the
diverse forms the masks and local rituals take.
R.3: The past and current efforts to safeguard Raiho-shin rituals attest to the longterm
commitment of the local communities to protecting and transmitting the
element, with local safeguarding associations and the National Council for the
Safeguarding and Promotion of Raiho-shin Rituals taking the lead role. The welldefined
safeguarding measures proposed draw on past initiatives and include the
transmission, identification and promotion of the element. The file clearly
demonstrates the communities’ involvement in planning the proposed
safeguarding measures and their central role in their implementation.
R.4: The nomination file clearly describes the participation of community members at
all stages of its preparation, highlighting the discussions and meetings held. The
local communities are represented by their associations, local governments and
the National Council for the Safeguarding and Promotion of Raiho-shin Rituals
and they all granted their free, prior and informed consent.
R.5: As Raiho-shin is practised in ten distinct locations and known by different names,
the ten ritual visits of deities in masks and costumes were included separately in
the Inventory of the Intangible Cultural Heritage in Japan between 1977 and 2017.
The description of the element is sufficient and documentary evidence from the
national inventory is provided, covering all the necessary information. The
community members were actively involved in creating and updating the
inventory.
3. Inscribes Raiho-shin, ritual visits of deities in masks and costumes on the
Representative List of the Intangible Cultural Heritage of Humanity;
4. Congratulates the State Party for submitting a well-prepared, clearly structured
nomination file and commends it for delivering a video which reflects all the key
aspects of the element and allows viewers to understand the element in detail;
5. Takes note that the present inscription replaces the 2009 inscription of Koshikijima no Toshidon, in conformity with Chapter I.6 of the Operational Directives.
国指定重要無形民俗文化財である来訪神行事
「甑島のトシドン(こしきじまのとしどん)」(平成21年ユネスコ無形文化遺産登録)
所在地:鹿児島県薩摩川内市 指定年月日:昭和52年5月17日
保護団体:甑島のトシドン保存会
概要:
甑島のトシドンは,鹿児島県薩摩川内市の下甑島に伝承される,正月に行われる行 事である。当地では,大晦日(12 月 31 日)の晩になると,トシドンと称する神が山 の上に降り立ち,首のない馬に乗って人里を訪れるとされ,家々を巡り歩き,新年を 祝福する。
トシドンには,男たちが扮する。長い鼻に大きな口の奇怪な面を被り,藁蓑(わらみの) のほか,シュロ(棕梠)やソテツ(蘇鉄)の葉などを身に付ける。各家の戸口で馬の足音をさ せてから屋内に入ると,特に子供達に,大声で脅したり,本人から日頃の暮らしぶり を問いただし,よい子になるよう諭し,ときとして褒めるなどする。こうして最後に は,子供に褒美としてトシモチ(歳餅)と呼ぶ大きな餅を与え,背中に戴(いただ)かせ,去っ ていく。歳餅は,これを貰わないと1つ歳を取ることができないとされており,いわゆるお年玉の初原と考えられている。
この行事は,年初に当たって神々が訪れ,人びとに祝福を与え,あるいは訪れるこ とで歳が改まるといった行事である。類似の行事は全国に分布するが,なかでも甑島のトシドンは,我が国の民間信仰や神観念の形態をよく示しており,南九州の来訪神 行事の典型例として重要である。
「男鹿のナマハゲ(おがのなまはげ)」(平成23年ユネスコ無形文化遺産「情報照会」)
所在地:秋田県男鹿市 指定年月日:昭和53年5月22日
保護団体:男鹿のナマハゲ保存会
概要:
男鹿のナマハゲは,秋田県男鹿市に伝承される,正月に行われる行事である。当地
では,大晦日(12 月 31 日)の晩になると,ナマハゲと称する神が人里を訪れるとさ
れ,家々を巡り歩き,新年を祝福する。昭和 20 年代までは小正月(1 月 15 日)に行
われていた。
囲炉裏などで長く暖をとっていると,手足に火斑(ひだこ)ができるが,これを当地ではナモミといい,何もしない怠惰の表れと解している。ナマハゲはそのナモミを剝ぎとってしまう,ナモミ剝ぎの転訛とされ,すなわち怠惰を戒めるの意からそう呼ぶようになったとされている。ナマハゲは,各地区の青年たちが扮するが,大きな鬼の面を被り,ケデ(藁蓑 わらみの)を身にまとい,手には包丁や桶を持つなどして「泣く子はいねがー,親の言うこど聞がね子はいねがー」「ここの嫁は早起きするがー」などと大声で叫びながら家々を巡り,その都度,当家より料理や酒で丁重にもてなされ,去っていく。
この行事は,年初に当たって神々が訪れ,人びとに祝福を与え,地域に幸いをもたらすといった行事である。類似の行事は全国に分布するが,特に男鹿のナマハゲは,我が国の民間信仰や神観念の形態をよく示しており,秋田県男鹿半島における来訪神行事の典型例として重要である。
「能登のアマメハギ(のとのあまめはぎ)」
所在地:石川県輪島市・能登町
指定年月日:昭和54年2月3日
保護団体:能登のアマメハギ・面様年頭保存会
概要:
能登のアマメハギは,石川県輪島市及び能登町に伝承される,正月若しくは節分に行われる行事である。当地では,正月中の所定の日(6・14・20 日など)あるいは節分の日(2 月 3 日)の晩になると,アマメハギと称する神が人里を訪れるとされ,家々を巡り歩き,新春を祝福する。地域によってはメンサマと呼ぶところもある。
囲炉裏などで長く暖をとっていると,手足に火斑(ひだこ)ができるが,これを当地ではアマメといい,何もしない怠惰の表れと解している。アマメハギはそのアマメを剝ぎとる,アマメ剝ぎに由来するとされ,怠惰を戒めるの意からそう呼ぶようになったという。
アマメハギは,各地区の青年や子供たちが扮するが,その面は様々で,天狗面や鼻ベ チャ面,猿面,あるいは男面・女面などがある。そして,手には包丁を持つなどして各家を訪れ「アマメを作っている者はいないか…アマメー」などと大声で叫び,怠け者や悪い者がいないか,そして怠惰を戒めつつ,家人に言い聞かせては去っていく。
この行事は,年初や初春に当たって神々が訪れ,人びとに祝福を与え,地域の災厄を祓といった行事である。類似の行事は全国に分布するが,なかでも能登のアマメハギは,我が国の民間信仰や神観念の形態をよく示しており,石川県能登半島の来訪神行事の典型例として重要である。
「宮古島のパーントゥ(みやこじまのぱーんとぅ)」
所在地:沖縄県宮古島市
指定年月日:平成5年12月13日
保護団体:島尻自治会,野原部落会
概要:
宮古島のパーントゥは,沖縄県宮古島市の宮古島に伝承される,季節の節目に行われる行事である。島尻と野原の二つの地区に伝承されており,島尻では,旧暦 9 月上旬,野原では,旧暦12 月の最後の丑の日に行われる。この日,パーントゥと称する異形の神が現われ,集落内を歩き回って災厄を祓う。
パーントゥとは,化け物や鬼神を意味する呼称で,仮面をつけ,草や泥などを体につけた姿で現れる。島尻では,男性の若者が体に蔓草(つるくさ)を巻きつけ,井戸の泥を全身に塗ってパーントゥに扮する。杖を持ち,手に持った仮面で顔を覆いながら集落内を歩き回り,出会った人たちに泥を塗り付ける。新築や出産など慶事のあった家では,とくに来訪を歓迎する。野原では,この行事はサティパロウ(里祓い)とも称され,仮面をつけた子供と草を身にまとった女性たちの一行が地区内を歩き回り,四つ辻や家々などで災厄祓いをする。
この行事は,秋・冬の節目に当たって神が訪れ,地域とその人びとの災厄を祓うと
ともに,幸いをもたらすといった行事である。類似の行事は南西諸島に分布するが,
なかでも宮古島のパーントゥは,我が国の民間信仰や神観念の形態をよく示しており,
沖縄地方の来訪神行事の典型例として重要である。
「遊佐の小正月行事(ゆざのこしょうがつぎょうじ)」
所在地:山形県遊佐町
指定年月日:平成11年12月21日
保護団体:遊佐のアマハゲ保存会
概要:
遊佐の小正月行事は,山形県遊佐町に伝承される,正月に行われる行事である。当地では,正月中の所定の日(1・3・6 日など)の晩になると,アマハゲと称する神が人里を訪れるとされ,家々を巡り歩き,新年を祝福する。昭和 10 年頃までは一様に旧暦の小正月(1 月 15 日)に行われていた。
囲炉裏などで長く暖をとっていると,手足に火斑(ひだこ) ができるが,これを当地ではアマゲといい,何もしない怠惰の表れと解している。アマハゲはそのアマゲを剝ぎとる, アマゲ剝ぎに由来するとされ,怠惰を戒めるの意からそう呼ぶようになったという。 アマハゲは,赤鬼や青鬼などの面を着け,藁(わら)で編んだケンダンと称するものを幾重にも身に巻きつけ,若者たちが扮する。多くは,太鼓打ちとアマハゲ数名が一団となって巡るが,家に入ると戸主と新年の祝いを交わしたのち,身を揺すりながら大声をあげ,子供や娘,若嫁や若婿などを威嚇しやがて,太鼓の合図とともに終える。次に, 酒や料理で接待を受けるが,このとき当家とアマハゲの間で餅の授受がある。
この行事は,年初に当たって神々が訪れ,人びとに祝福を与え,餅をやりとりするなどして地域の豊 穣(ほうじょう)を約束するといった行事である。類似の行事は全国に分布するが,なかでも遊佐のアマハゲは,我が国の民間信仰や神観念の形態をよく示しており, 山形県庄内地方の来訪神行事の典型例として重要である。
「米川の水かぶり(よねかわのみずかぶり)」
所在地:宮城県登米市
指定年月日:平成12年12月27日
保護団体:米川の水かぶり保存会
概要:
米川の水かぶりは,宮城県登米(とめ)市に伝承され,二月初午(2 月最初の午の日)に行われる行事である。当地では,この日,「しめなわ」と 被(かぶり)物を纏(まとった)奇怪な姿の者たちが火伏 (火災除)を願って沿道の家々に水を掛けながら,社寺等を参詣する。
若者と厄年を迎えた者たちは,宿と称する特定の家に集まると,身にまとう「しめなわ」3本と,頭に被る大きな苞(つと)状のものを藁(わら)で作り始める。これらをオシメという。できあがると,裸となってオシメを身に付け,顔にはかまどの煤(すす)を塗って黒くする。 こうして一同は列をなして諸社寺へと向かうが,その途中,各家が用意しておいた水を屋根に掛けながら走っていく。水かぶりの一行が通りかかると,人びとは競ってオシメの藁を引き抜き,これを屋根の上に載せておく。こうすると火伏せになる,魔除になるといわれている。
この行事は,初午に行われる火伏せの行事であるが,同時に若者たちが異装をし,
正体がわからないようにして現れるなど,異形異装の来訪神行事の要素も併せ持っている。米川の水かぶりは,我が国の民間信仰や神観念の形態をよく示しており,宮城県北部における火伏せ行事の代表例であるとともに,地域的特色を有したものとして
重要である。
「見島のカセドリ(みしまのかせどり)」
所在地:佐賀県佐賀市
指定年月日:平成15年2月20日
保護団体:加勢鳥保存会
概要:
見島のカセドリは,佐賀県佐賀市に伝承される,初春に行われる行事である。現在,当地では,2 月の第 2 土曜を行事日としているが,かつては旧暦の小正月(1 月14 日)に行っていた。この日の晩,神の使いとされるカセドリが家々を巡り歩き,新年を祝福する。
カセドリは,若者たちが扮する。雌雄 1 対とされることから,2 名で行う。身には藁(わら)蓑(みの)をまとい,頭には目と鼻,口だけを出して白手拭いを巻き,その上から笠を被る。そして,手には長さ 2 メートルほどの青竹を持つ。この青竹は,下半分を縦に細かく裂いたもので,叩きつけるとガシャ,ガシャと音が出るようになっている。
カセドリ は,青竹を引きずって暗い夜道を歩き,屋敷内に入ると,青竹の先を地面に擦りつけながら家内に勢いよく走り込み,上がり框や座敷に上がってしばらく青竹を打ち鳴らす。その後,頃合いを見計らって家人が酒や茶などをカセドリに振る舞ったのち,最後にもう一度,青竹を打ち鳴らして去っていく。
この行事は,初春に当たって神の使いが訪れ,人びとに祝福を与えるとともに,悪霊を祓い,その年の家内安全や五穀豊穣を祈願するといった行事である。類似の行事は全国に分布するが,なかでも見島のカセドリは,我が国の民間信仰や神観念の形態をよく示しており,九州北部の来訪神行事の典型例として重要である。
「吉浜のスネカ(よしはまのすねか)」
所在地:岩手県大船渡市
指定年月日:平成16年2月6日
保護団体:吉浜スネカ保存会
概要:
吉浜のスネカは,岩手県大船渡市に伝承される,正月に行われる行事である。当地 では,小正月(1 月 15 日)の晩になると,スネカと称する神が山から人里を訪れるとされ,家々を巡り歩き,春の到来を祝福する。日にちの移行はなく,昭和 30 年代までは旧暦で行っていた。
囲炉裏などで長く暖をとっていると,脛(すね)などに火斑(ひだこ)ができるが,これを当地では怠惰の表れと解している。スネカは,そうした脛の皮を剝ぐ意のスネカワタグリ(脛皮たぐり)に由来するとされ,つまりは怠惰を戒めることからそう呼ぶようになったと いう。スネカは男たちが扮するが,面は鬼とも馬ともつかない奇怪なもので,藁(わら)蓑(みの)や毛皮などを身に付け,背には俵を背負い,手にはキリハと称する小刀を持つ。腰にはたくさんのアワビの殻を吊つり下げており,ジャラジャラと音がすることから,家人は その到来を察知する。スネカは各家の庭先に着くと,戸を揺すったり,爪で引っ掻かくなどしてから屋内に入り,上がり框に足をかけたり,座敷に上がり込んでは,キリハを振りかざして威嚇する。子供たちが泣き叫んだり,逃げ出そうとする中「カバネヤ ミ(怠け者)いねえが」「泣くワラシいねえが,言うこと聞かねワラシいねえが」などと声を張り上げる。しばらくして,家人は「カバネヤミも泣くワラシもいねえがら,餅あげっから帰ってけらっせん」などといって,スネカの退散を促す。
この行事は,年初に当たって神々が訪れ,人びとに春を告げ,その年の豊穣をもたらすとともに,怠け者や泣く子を戒めるといった行事である。類似の行事は全国に分布するが,特に吉浜スネカは,我が国の民間信仰や神観念の形態をよく示しており,岩手県三陸地方における来訪神行事の典型例とて重要である。
「薩摩硫黄島のメンドン(さつまいおうじまのめんどん)」
所在地:鹿児島県三島村
指定年:平成29年
保護団体:硫黄島の八朔太鼓踊り保存会
概要:
薩摩硫黄島のメンドンは,鹿児島県三島村の硫黄島に伝承される,季節の節目に行われる行事である。毎年,八朔(はっさく)の行事日となる旧暦の 8 月1 日・2 日に,メンドンと 称する神が現れ,地域と人びとの邪気を追い祓(はら)う。
メンドンには,若者や子供たちが扮する。蓑を身にまとい,頭にはテゴと呼ぶ籠に 紙を貼って作った奇怪な面を被る。手にはスッベと呼ぶ枝葉を持つ。夕方,神社の前 で若者たちが輪になって太鼓踊りをしていると,突如,拝殿奥から 1 体のメンドンが 走り込んできて,踊り手の周囲を3周し,去っていく。これが終わると,次々とメンドンたちが走ってきては,踊りの邪魔をしたり,飲食に興じる観客たちの中に分け入るなど,悪戯(いたずら)をはじめる。手に持つ枝葉でしきりに叩くが,これに叩かれると魔が祓われてよいなどという。こうして,メンドンらは神社を出たり入ったりしながら,せわしく駆け回るが,踊りの終わったあとも夜中まで所かまわず出没,徘徊している。
この行事は,夏・秋の節目に当たって神が訪れ,地域とその人びとの災厄を祓うとともに,幸いをもたらすといった行事である。類似の行事は南西諸島に分布するが, なかでも薩摩硫黄島のメンドンは,我が国の民間信仰や神観念の形態をよく示してお り,種子島・屋久島地方における来訪神行事の典型例として重要である。
「悪石島のボゼ(あくせきじまのぼぜ)」
所在地:鹿児島県十島村(としまむら)
指定年:平成29年
保護団体:悪石島の盆踊り保存会(あくせきじまのぼんおどりほぞんかい)
概要:
悪石島のボゼは,鹿児島県十島村の悪石島に伝承される,季節の節目に行われる行事である。毎年,盆の最終日となる旧暦7 月16 日に,ボゼと称する神が現れ,地域と人びとの邪気を追い祓う。
ボゼには,3名の若者たちが扮する。赤土と墨を塗りつけた異様な仮面を被り,体にはビロウの葉を巻き付け,手足にはシュロ皮やツグの葉を当てがう。手には,それぞれボゼマラと称する男根を模した長い杖を持つ。この日の夕方,ボゼは呼び太鼓の音に導かれ,盆踊りで人びとが集まる広場に現れる。ボゼは,ボゼマラの先端に付けた赤い泥を擦り付けようと,観衆を追い回す。この泥を付けられると,悪魔祓いの利益があるとされ,特に女性は子宝に恵まれるなどという。騒ぎがしばらく続いたのち,太鼓の音がゆったりとしたリズムに変わると,ボゼは体を揺するようにして踊りはじめ,再度急変の調子で再び暴れだし,その場を去っていく。
この行事は,夏・秋の節目に当たって神が訪れ,地域とその人びとの災厄を祓うとともに,幸いをもたらすといった行事である。類似の行事は南西諸島に分布するが,なかでも悪石島のボゼは,我が国の民間信仰や神観念の形態をよく示しており,トカラ列島における来訪神行事の典型例として重要である。
「来訪神:仮面・仮装の神々」のユネスコ無形文化遺産登録(代表一覧表記載)に当たっての 柴山昌彦文部科学大臣談話
「来訪神:仮面・仮装の神々」が,ユネスコ無形文化遺産に登録されたことは大変喜ばしく,各地で「来訪神」行事の保護・継承に取り組んでこられた関係の皆様に心よりお祝い申し上げます。
今回の登録は,平成21年に登録された「甑島のトシドン」を拡張し、「男鹿のナマハゲ」を含む計10件の国指定重要無形民俗文化財を「来訪神:仮面・仮装の神々」として一括して提案し,認められたものです。日本の各地域の「来訪神」行事の豊かな特色が,国内外に発信されることを期待します。
「来訪神」は,外界から異形の神々が訪れ,人々に福をもたらす行事であり,日々の暮らしの安寧を求める人々の素朴な願いが込められています。この登録が契機となり,地域で受け継がれてきた文化に対する理解が深まり,また,地域間の新たな交流や対話が生まれ,新しい絆や活力につながっていくことを願っております。
文部科学省としては,「来訪神」行事が各地域で次世代に着実に継承されるとともに,地域の活力向上につながるよう,しっかりと取り組んでまいります。
協力(順不同・敬称略)
文部科学省 〒100-8959 東京都千代田区霞が関三丁目2番2号 電話:03-5253-4111(代表)
文化庁 〒100-8959 東京都千代田区霞が関3丁目2番2号 電話番号(代表)
内閣府 〒100-8914 東京都千代田区永田町1-6-1電話番号 03-5253-2111(大代表)
鎹八咫烏 記
伊勢「斎宮」の明和町観光大使
※画像並びに図表等は著作権の問題から、ダウンロード等は必ず許可を必要と致します。
0コメント