熊野信仰の起こり
私達の祖先は、一体いつの頃から「神」の存在を感じたのでしょう?古代の人々にとって、生命の保証のない大自然の中で生きていくことは、想像を絶するほど過酷であったと思われます。自然は、言葉で言い尽くせない驚異、感動、苦しみ、そして恵みを私達に与えます。 人間の生活を、また自らをも破壊してゆく自然の猛威、一方で暖かい光と豊饒の恵みをもたらす生命の泉としての存在・・・大自然の脅威と恵みは、古代人の心に「恐れ」と、気高く聖なるものへの「畏れ」を生み出していきます。
その中で私達の祖先は、自然をも超越した完全無欠の神を望まず、大自然の中にこそ存在し、災害も恵みも合わせ与える厳しくも温かい神を望みました。 熊野には、自然が作り上げた神聖な場所がいくつも残っていて、そのような特別の場所に、熊野三山の神々は降り立ちました。
世界遺産登録
紀伊山地の熊野三山、高野山、吉野、大峯は、古来「南山」と呼ばれ、自然崇拝に根ざした神道、外来の仏教、その両者が結びついた修験道など多様な信仰形態を育んだ神仏の霊場です。また、熊野参詣道、高野山町石道、大峯奥駈道などの参詣道(古道)とともに広範囲にわたり極めて良好に保全され、山岳、森林と一体となった「文化的景観」を形成しています。
2004年7月、熊野三山を含む「紀伊山地の霊場と参詣道」が日本で12番目の世界遺産に登録されました。
熊野速玉大社
御祭神
第一殿(結宮) 熊野夫須美大神 第二殿(速玉宮) 熊野速玉大神 第三殿(証誠殿) 家津美御子命 国常立命 第四殿(若宮) 天照皇大神 第五殿(神倉宮) 高倉下命 第六殿(禅地宮) 天忍穂耳命 第七殿(聖宮) 瓊々杵命 第八殿(児宮) 彦火々出見命 第九殿(子守宮) 鸕鷀草葺不合命 第十殿(一万宮) 国狭槌命 (十万宮) 豊斟渟命 第十一殿(勧請宮) 埿土煮命 第十二殿(飛行宮) 大斗之道命 第十三殿(米持宮) 面足命 〈以上をもって新宮十二社大権現と称す〉
御由緒
熊野速玉大社は、熊野三山のひとつとして全国に祀る数千社の熊野神社の総本宮です。今から約二千年ほど前の景行天皇五十八年の御世に、熊野三所権現が最初に降臨せられた元宮である神倉山から現在の鎮座地にお遷りになり、これより神倉神社の『旧宮』に対して『新宮』と号したと古書にみえます。
御祭神は、熊野速玉大神(いざなぎのみこと)・熊野夫須美大神(いざなみのみこと)を主神に、十二柱の神々を祀り上げ新宮十二社大権現として全国から崇敬を集めています。 特に、孝謙天皇の御世、日本第一大霊験所の勅額を賜り、熊野三山の中でも逸早く『熊野権現』の称号を賜りました。「権現」とは仮に現われるの意味で、神様は御殿の中のもっとも清浄な奥処に鎮まりましますので、私達の目にはそのお姿を直接見ることができません。そこでそのお姿を仮に仏に変えて、我々の住む俗世界に現われるという考え方が浸透していきます。
奈良朝末期にいたって、熊野速玉大神は衆生の苦しみ、病気を癒す薬師如来として過去世の救済を、またお妃の熊野夫須美大神は現世利益を授ける千手観音菩薩、家津美御子大神は来世浄土へ導く阿弥陀如来として位置づけられ、山伏や熊野比丘尼によって熊野権現信仰は飛躍的な拡がりを見せ、全国に数千に及ぶ御分社が祀られるにいたりました。
さらに、中世熊野信仰の興隆にともない、皇室、公卿、武士中心から庶民信仰へと発展し、過去世救済、現世利益、来世加護を説く三熊野詣こそ、滅罪・甦りへの道であるとして、「蟻の熊野詣」の諺のごとく熊野街道は賑わったのです。
古歌にみる熊野詣の心
熊野へ参るには 紀伊路と伊勢路とどれ近しどれ遠し
広大慈悲の道なれば 紀伊路も伊勢路も遠からず
梁塵秘抄
よをてらす 影とおもへば熊野山
山のかひある 行未もかな
後鳥羽天皇
なぎの葉に みがける露のはや玉を
むすぶの宮や ひかりそふらむ
夫木集 検校法親王
神倉山と新宮
「熊野権現御垂迹縁起」(一一六四年長寛勘文)はじめ諸書によると、熊野の神々は、神代の頃、まず初めに神倉山のゴトビキ岩に降臨され、その後、景行天皇五十八年、現在の社地に真新しい宮を造営してお遷りになり、「新宮」と号したことが記されています。
初めは、二つの神殿に熊野速玉大神、熊野夫須美大神、家津美御子大神を祀り、平安時代の初めには現在のように十二の神殿が完成しました。
日本書紀には、神武天皇が神倉に登拝されたことが記されています。悠久の古より人々から畏れ崇められてきた神倉山には、初め社殿はなく、自然を畏怖し崇める自然信仰、原始信仰の中心であったと思われます。また、ここから弥生時代中期の銅鐸の破片も発見されています。 十月の例大祭では、お旅所に新宮の由来となった最初の宮である「杉ノ仮宮」を造り、古式に則って神事が行われます。
人生甦りの熊野詣で
自然信仰を原点に神社神道へと展開していく熊野信仰は、六世紀に仏教が伝わると早くから神仏習合が進み、「熊野権現信仰」が全国に広まっていきます。「権現」とは、神が権り(仮)に姿を仏に変え、衆生を救うために現れるという意味で、過去・現在・未来を救済する霊場として熊野は広く人々に受け入れられていきます。
さらに、強者弱者、地位や善悪、信不信を問わず、別け隔てなく救いを垂れる神仏として崇敬され、人々は難行を覚悟で、熊野をめざし、「蟻の熊野詣で」の諺も生まれました。
熊野古道は、滅罪と救いを求めて難行を続ける人々がつけた命の道です。険しい山路を越えてやっとのことで宝前に辿り着いた人々は、皆涙に咽んだといいます。そして、熊野の神にお仕えする私達の祖先は、たとえ参詣者のわらじが雨で濡れていてもそのまま温かく拝殿に迎え入れました。これを「濡れわら沓の入堂」といい、熊野速玉大社の社訓になっています。
美しい感激の涙で心が洗われ、自分本来の姿を取り戻す旅・・・。熊野は生きる力を、もう一度受け取りに来るところなのです。命がけの旅は、私達が生まれた時に持っていたはずの純真なこころと姿を取り戻す試練の旅でもあったのでしょう。
難行苦行の果てにあるもの・・・それは、迷わず人生の再出発を踏み出すための勇気と覚悟の加護にほかなりません。熊野速玉大社が「甦りの地」といわれる本意は、正にここにあります。
宝物
彩絵檜扇(さいえひおうぎ)
この彩絵檜扇は緑の松、朱赤の楓を画き、金銀箔をちらし、下方にはススキを配している。 檜扇とは檜の薄皮をつヾって作った扇で、主として宮中においての儀式に際し、公家の男女が正装して所持したもの。位によって枚数がことなる。熱田神宮に一握、厳島神社に五握、熊野速玉大社のもと摂社阿須賀神社に一握(現在は国有)を存するのみで、これは長さ一尺三寸二分、巾上一寸二分、本九分の檜板二十七枚を萌黄紅糸で綴合せ、紙ヨリを石畳結びとして蟹目にとおした親王用品である。世に熊野檜扇として有名な十握の中の一つである。
祭礼行事
特殊神事
熊野速玉大社では、様々な特殊神事が斎行されます。
扇立祭(7月14日)
熊野速玉大社で行われる祭儀。午後6時に国宝の檜扇を神殿に立てて執り行われる神事で、国家安泰、無病息災、家内安全などを祈願します。境内には夜店がならび、エリア最大の夏祭りとしても有名。納涼を兼ねた浴衣姿の参拝者が多く訪れます。
熊野速玉大社について、さらに詳しくはこちらをご覧ください
https://tokyo2020-summer.themedia.jp/posts/2901670
神倉神社について、さらに詳しくはこちらをご覧ください
https://tokyo2020-summer.themedia.jp/posts/2908032
交通アクセス
京阪神から電車・バスで熊野三山へ
熊野速玉大社へ
京阪神からJRきのくに線を利用して新宮駅下車。
駅からタクシーで約5分。
名古屋から電車・バスで熊野三山へ
熊野速玉大社へ
電車利用の場合
名古屋駅よりJRワイドビュー南紀にて新宮駅まで約3時間30分。
JR新宮駅から熊野交通バスにて権現前まで4分。下車後、徒歩2分。
高速バス利用の場合
名古屋・名鉄バスセンターより、三重交通の高速バスにて新宮駅まで約4時間40分。
東京から飛行機・電車・バスで熊野三山へ
熊野速玉大社へ
飛行機~電車利用の場合
東京 羽田空港より南紀白浜空港へ約70分。
空港より路線バスにてJR白浜駅まで約20分。
JR白浜駅より特急にて約1時間40分で新宮駅へ。下車後、駅からタクシーで約5分。
飛行機~バス利用の場合
東京 羽田空港より南紀白浜空港へ約70分。
空港より明光バスの「快速 熊野古道号」に乗車し約2時間15分で新宮駅へ。
下車後、駅からタクシーで約5分。
高速バス利用の場合
大宮・池袋より西武バスの南紀勝浦線にて新宮駅へ
新宮駅からは熊野交通および奈良交通の路線バスを利用して権現前下車、徒歩2分。
車で熊野三山へ
熊野速玉大社へ
京阪神より
阪和自動車道南紀田辺ICより国道42号線、国道311号線を経て本宮を経由し、国道168号線を南下して新宮市へ約92km。
名古屋より
東名阪自動車道から伊勢自動車道を通り、紀勢自動車道を経て国道42号から国道168号で約225km。
協力(順不同・敬称略)
熊野速玉大社 〒647-0003 和歌山県新宮市新宮1番地 電話: 0735-22-2533
熊野三山協議会事務局 〒647-8555 和歌山県新宮市春日1-1 新宮市役所商工観光課内
TEL: 0735-23-3333
新宮市役所〒647-8555和歌山県新宮市春日1-1電話 0735-23-3333
(株)熊野新聞社 〒647-0045 和歌山県新宮市井の沢3-6 TEL: 0735-22-8080
新宮市観光協会 和歌山県新宮市徐福2-1-1 新宮駅構内 TEL:0735-22-2840
公益社団法人 和歌山県観光連盟 〒640-8585 和歌山県和歌山市小松原通1-1
和歌山県庁観光振興課内 TEL.073-422-4631
文化庁 〒100-8959 東京都千代田区霞が関3丁目2番2号 電話番号(代表)03(5253)4111
鎹八咫烏 記
伊勢「斎宮」の明和町観光大使
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