先の北海道における地震災害、関西地方ならびに中国四国・九州地方における大雨・地震災害で亡くなられた皆様のご冥福をお祈りするとともに、被災された全ての方々に心よりお見舞い申し上げます。
姥神とは
姥神の定義の説明の前にまず、奪衣婆の説明をさせていただきたい。
奪衣婆とは、死後にあの世へ渡るための三途の川の岸辺にいて、亡者の衣を脱がせる存在である。なぜ脱がせるのかと言うと、その衣を衣領樹(えりょうじゅ)と呼ばれる木の枝にかけるためである。そうすると生前の罪の大きい者は枝が大きく下がり、小さい者はほとんど動かない。亡者の罪はその衣に重さとなって染み込んでいることになる。衣領樹は罪を量るはかりであり、それを審査するのが奪衣婆である。
この奪衣婆の姿は、目をらんらんと開き、耳まで裂けた口には牙を生やしたいわゆる鬼婆の顔。そして片足を立てて座り、はだけた上着からは垂れた胸をあらわにしている。
この奪衣婆に対しその像容が一緒であり、しかしながら単独で祀られているものがある。富山県立山芦峅寺の姥堂に祀られていたものなどは、奪衣婆と同じ姿の像をおんば様と呼び、奪衣婆とは別のものとして信仰していた。これに似たような信仰が今も全国に残っている。
これら像容が奪衣婆と同じで、それ単独で祀られているものを奪衣婆とは区別し、ここでは姥の神、姥神と呼ぶこととする。
御岩山の姥神像
御岩神社の姥神様
茨城県日立市入四間町の御岩山の麓にある御岩神社は、国常立尊(クニノトコタチノカミ)、大国主命、イザナギノミコト、イザナミノミコトなど188柱の神様を祀り、パワースポットとしても注目されている神社です。
御岩神社境内の姥神の祠
御岩神社本堂
その境内本堂の右側に、姥神様として祠に姥神像が祀られています。同神社は、721年に書かれたとされる『常陸国風土記』に、「浄らかな山かびれの高峰(御岩山の古称)に天つ神鎮まる」とあることから、古くから崇拝されていたことがわかります。
また、『水戸紀年』寛永七年の項に、「九月朔日入四間山ノ嶮ヲ開テ人跡ヲ通シ羽州湯殿山ヲ移サル」とあり、入四間にある山(御岩山)に道を開き、湯殿山を勧請したことがわかります。水戸藩で寛永7年(1630年)に出羽三山を勧請し、御岩山を湯殿山権現に、月山を月山権現、大室山を羽黒権現に見立てて国峰としたとされ、御岩山を湯殿山に見立てていたようです。
御岩神社古地図
そして姥神像は、もともとは御岩山の中腹にあったことが、同神社にある古地図などの資料から見て取れます。
初代藩主徳川頼房は入四間湯殿山権現として勧請し、2代藩主光圀(水戸黄門)が御岩山大権現と改称し、水戸藩の祈願所としたとされます。このことから、湯殿山勧請は、藩の一大事業だったと思われます。
その御岩山に置かれた姥神像について、田中英雄氏の『東国里山の石神・石仏系譜』によると、以前は子育て、子授けの守り神とされていた様です。また、同書のなかで水戸藩が湯殿山を遷した後、地域で月山と羽黒山を近くにつけ加えたのではないかと考察しています。
御岩神社の大日如来像
御岩神社の阿弥陀如来像
神社にも関わらず、境内には室町時代の作とされる仏像の大日如来像、阿弥陀如来像が安置されています。大日如来は湯殿山の本地仏、阿弥陀如来は月山の本地仏になります。
姥神像が御岩山登山道の途中にあったことは、結界の意味だったと思われるほか、湯殿山に見立てた御岩山に置かれたことは、湯殿山と姥神が強く結び付いていたと言うことができます。
続く・・・
寄稿文 廣谷知行(ひろたに ともゆき)
姥神信仰研究家
電話番号 080-5573-2066
参考
徳川頼房(威公)(とくがわ よりふさ、いこう)1603年~1661年
水戸藩初代藩主。江戸幕府を創設した初代将軍徳川家康公の第11子として、京都伏見城で生まれ、1609年水戸藩主となる。水戸城の大修復、下町の造成など城下町の拡張、検地や水利事業の実施など藩の基礎を築いた功績には大きなものがある。
このように、御三家のひとつとして水戸藩の基礎を確立した頼房公は、水戸城中において59歳で没しました。おくり名は威公。
徳川光圀(義公)(とくがわ みつくに、ぎこう)1628年~1700年
水戸藩第2代藩主。1661年に水戸藩主となって以来,殉死の禁止,笠原水道の開設,貧民の救済と産業の振興などの善政を行い,藩内外から名君と仰がれました。
朝廷を尊び幕府を助けるとともに,中国の「史記」にならって日本の歴史を編さんしようと決意し,全国から優れた学者を招き自ら監修にあたった「大日本史」は,水戸藩ばかりでなく近世日本の文化に大きな影響を与えました。1690年藩主を譲り西山荘(常陸太田市)に隠居し,73歳で没しました。 義公とおくり名され,中納言の唐名から,「水戸黄門」の名で現在でも親しまれています。
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